萩原朔太郎

虚無の歌我れは何物も喪失せず また一切を失ひ尽せり。 「氷島」 午後の三時。広漠とした広間(ホール)の中で、私はひとり麦酒(ビール)を飲んでた。だれも外に客がなく、物の動く影さへもない。暖炉(ストーブ)は明るく燃え、扉(ドア)の厚い硝子を通して、晩秋…