『前世ハンター』野崎六助、〇一年七月発行、新潮社刊

以前にも評論家のM.M.さんから出版されていることは教示された。今月の初めに会ったときに再び話題になったので図書館で探し借りることが出来た。出先の地域図書館には野崎六助の著作がそろっていた。
小説。SFのジャンルになるのかミステリーなのか、はたまた歴史ものなのか? 区分けすることに意味はないが、どのような領域にもあてはまる「楽しめる小説」として刊行されている。
 なぜM.M.さんとの間で話題になったのか、物語りの主人公が金子文子と朴烈ということからである。正しくは二人の生を輪廻転生で受継いだ一九九九年の「別の日本」に生きる香坂美幸、滝浦幸生が主人公で二人を中心にした物語。「別の日本」というのは地名、企業名の漢字表記が近似の音でわざと違えてあるということ、元号表記は同一であるが西暦と邦暦を一年分ずれさせていることが根拠である。著者はそのような説明を直接的にはしていないが、時空のずれを語るところで異なる歴史をもった「世界」の存在を説明している。
 金子文子と朴烈の裁判記録が直接的に数ページ分も引用されている。
この小説世界では金子文子と朴烈は皇太子の結婚式に爆裂弾を投げ込むことになる。むしろそのような二人の意志を成就させるためにこの物語を構想したのではなかと思われる。
 当然ながらこの世界では天皇といわれていた人物らしい存在も登場してくる。
 金子文子と香坂美幸の間をつなぐ転生した人物を西暦一九七四年に企業爆破を起こしたグループのメンバーとして登場させている。