成田龍一『大正デモクラシー』

当然ながら今井清一の『大正デモクラシー』以降の歴史研究あるいは論争の経過、成果を踏まえ書かれている。項をたてての「被植民地への眼差し」はその結果であろう。しかし関東大震災後の記述は後退している。社会運動の記述ではコミュニズム史観としかいいようがない。金子文子を被植民地での生活者として触れているが、肝心の刑法73条での弾圧に「震災後」の弾圧として正面から触れていない。その反面「怪写真事件」に触れ、さらに「朴烈事件」と称し混同している。もちろん和田久太郎やギロチン社の行為は記述されていない。新書という字数の限界で欠落させたのか、もともと1920年代の社会運動を把握できていないのが原因なのだろうか
1925年、治安維持法成立の直後に金子文子・朴烈は刑法73条、再度の爆取罰則で予審に付されたという事実を認識して欲しい。

岩波書店新書編集部による内容紹介。
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/
日露戦争で勝利した日本は、社会変動とデモクラシーの時代を迎えます。「民本主義」をはじめとする多彩な言論が花開き、労働者、農民、女性、被差別部落の人びとによる様々な社会運動が展開され、政党内閣の成立へと結実してゆく時代です。

 シリーズ日本近現代史の4巻目は、大正デモクラシーを扱います。1905年の日比谷焼打ち事件から、大正政変、米騒動普通選挙の実施を経て、1931年の満州事変前夜に至るまでの25年の歩みを、「社会」を主人公にして描き出します。

 この25年は、台湾や朝鮮での植民地支配が展開し、帝国の秩序が再編されてゆく時代でもありました。「帝国のもとでのデモクラシー」とは、どのような姿をもっていたのでしょうか。そこにはどんな可能性と限界があったのでしょうか。1930年代の「戦時動員」の時代を見据えながら、この問いを考察してゆく力作です。

(新書編集部 小田野耕明)
■著者紹介
成田龍一(なりた・りゅういち)氏は、1951年大阪市に生まれる。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了・文学博士(史学)。専攻は、日本近現代史。現在、日本女子大学人間社会学部教授。著書に、『「故郷」という物語』『〈歴史〉はいかに語られるか』『近代都市空間の文化経験』『「大菩薩峠」論』『歴史学のポジショナリティ』ほか。編著に『総力戦と現代化』『都市と民衆』『20世紀日本の思想』などがある。
■目次
はじめに――帝国とデモクラシーのあいだ
第1章 民本主義と都市民衆
  1 日比谷焼打ち事件と雑業層
2 旦那衆の住民運動
3 第一次護憲運動と大正政変
4 民本主義の主張
5 「新しい女性」の登場
第2章 第一次世界大戦と社会の変容
  1 韓国併合
2 第一次世界大戦開戦
3 都市社会と農村社会
4 シベリア出兵の顛末
第3章 米騒動政党政治・改造の運動
  1 一九一八年夏の米騒動
2 政党内閣の誕生
3 「改造」の諸潮流
4 無産運動と国粋運動
5 反差別意識の胎動
第4章 植民地の光景
  1 植民地へのまなざし
2 三・一運動と五・四運動
3 植民地統治論の射程
4 ワシントン体制
第5章 モダニズムの社会空間
  1 関東大震災
2 「主婦」と「職業婦人」
3 「常民」とは誰か
4 都市空間の文化経験
5 普通選挙法と治安維持法
第6章 恐慌下の既成政党と無産勢力
  1 歴史の裂け目
2 既成政党と無産政党
3 緊縮・統帥権干犯・恐慌
4 恐慌下の社会運動
おわりに――「満州事変」前後
あとがき、参考文献、略年表、索引