「太平洋沿岸の労働者による 東方無政府主義者連盟 日本官憲の迫害、支、鮮、臺の同志逮捕」 「暴壓と闘い同志を救え! 上海事件の断罪に抗議せよ!」 『自由聯合新聞』三二号 一九二九年二月一日

日本官憲の迫害、支、鮮、臺の同志逮捕

我等の理想社会建設のための一切の闘争は、只に一地方に於て、部分的に行ひ成すことに止まることなく。常に我等と共に自由と平等の社会の建設のために努力を惜まざる、すべての、真実の意味に於ける解放運動の成員、及び、同一欲求に駆られてゐる極貧プロレタリアートの存在するすべての地方に於て、各自が、国家的感情や、国境精神に阻止されることなくして、各自が国境を乗り越ひて飽くまでも国際的に行はる可きものでなければならない。而して、我等の先駆者たちは常にそのための努力を続け、国内法の壓迫とも闘争して来たものである。それは独りヨーロッパの同志たちの手に由つて、インタナショナルの運動が継続され拡大されつゝあるのみならず、我が東アジアのアナーキスト同志の間にも、その緊密なる提携と共同的組織が必要とされつゝあり、その結成のための努力が払はれつゝあつたことを知ることが出来た。それは一九二一年、我が大杉栄氏が巧に国境を脱出して上海に到り、幾多の中国の同志たちと会見し協議せることに始まるものである。
そは、極端なる専制の下で呻吟しつゝある全東洋の被抑壓階級中の戦闘的分子を糾合して、東洋アナーキスト聯盟の組織することの必要を協議せるものであつた。かゝる歴史の下に、我が東方無政府主義者聯盟(O.A.F)は組織されたものである、と。

爆弾工場設置を理由に
提携切断が政府の魂胆

伝へられるところに由れば、同聯盟の有志によつて、北京郊外に爆弾工場が建設されドイツ及びロシアの二ヶ国より極めて優秀なる専門的技術家二名が招携されて爆弾を製造せることゝ、それに要する費用を調達するために、外国為替の偽造が行はれたと云ふ理由の下に、左の諸君が逮捕されるに至つたのである。
申釆浩、李響鉉、李鏡元(以上朝鮮)林柄文(臺 
湾)揚吉慶(中国)
の五名が、日本官憲のために、日本、朝鮮、関東州、臺湾の各地に於て逮捕されるに至つたものである。而して、それらの諸君の起訴れた罪名なるものは、何れも治安維持法違反、殺人遺棄罪等によるものである。然しながら、我等は、日本政府が発表せる斯る理由をもつて鵜呑にそれを信ずるものではない。何故なれば、彼等支配者共が民衆とアナーキストとを離反せしめんがために常になしつゝある逆宣伝とひとしき事件の内容であるからである。それよりも先づ我等は支配者共が行はんとする誹謗の魂胆を見なければならない。それこそ、今や中国の民衆が、其の本来の中国人的思想よりして、一切の強権主義運動に冷淡であり戦争を憎悪し、軍閥と政治家の私利に基く一切の戦争に対して、極めて強き反感を持ちつゝある現在に於て、支那を中心とするアナーキストの国際的聯絡は、日本支配者共の、中国に対する一切の陰謀が暴露せられると共に、支那プロレタリアを搾取することの不可能な地位に突き落とれることを意味せるが故に、此問題も、日支プロレタリアの提携を阻止つゝある彼等の壓迫手段であると見ることを以て正当となすべきである今こそ日支プロレタリアの極めて緊密なる提携によつて、日本ブルヂヨアジーの憎むべき魂胆をけ散らすべきではなからうか