人力飛行機ソロモン・市外劇

 1970年新宿市外劇
「想像力の空にレインコートの両手をひろげたままで落下して行くとき…さむい十一月の空からぼくの心臓までまっすぐに重心をたらして飛ばすべき百万人の名をかぞえることのなかに革命と反革命との原点をまさぐろう。」と俳優は語っていた。
 「みすぼらしくも暮れきった空の極北に、その一番高い侮蔑の大暗黒に、小林よしえを飛ばしてやりたい、下宿のおばさんを飛ばしてやりたい
 小学校の斎藤先生を 珍犬ハックルを まぼろしのレオン・トロツキーを飛ばしてやりたい 大関清国を ロスチャイルドを 加賀まり子を飛ばしてやりたい 爆弾製造人のウェザーマン、アレクシスを、藤圭子を、そしてまた少年拳銃魔永山則夫を、大工の木下さんを飛ばしてやりたい スハルト将軍を 鈴木いずみを … 日吉ミミを飛ばしてやりたい …脱走兵ホーキンスを … 力石徹を … ダヤン将軍を飛ばしてやりたい … 赤軍派資金担当の若林を … エルドリッジ・クリーバーを 札幌医大の和田教授を飛ばしてやりたい ミック・ジャガーを 銭ゲバを … ル・クレジオを … 都はるみを ニジンスキーを 三億円犯人を飛ばしてやりたい ハーバーマスを リヒテンシュタインを飛ばしてやりたい」
 もうもうと立ちこめる雲の中に機体は浮上しはじめる。記号は消滅し一切は虚構化し、赴くべき空は幻想の中で輪郭をあらわす。創造的な転回運動と力動的な集団の孤独。…

 記憶によるせりふの記録ではなく、『寺山修司戯曲集2』1981年11月発行、劇書房刊より