昨年11月、韓国の「真実と和解のための過去事整理委員会」のメンバーが来訪した。先行したのは委員長をはじめとした幹事メンバーで委員会の活動の周知と協力要請が行われ、在日コリアンを中心として人権問題、歴史研究に関わっている十名あまりの人たちと懇談の場がもたれ私も出席をした。当日は日本語に翻訳された委員会の概要が資料として配布された。そして数日をおいて調査グループも来訪し具体的に調査協力のための文献を提供した。同委員会は資料によると、委員会は韓国政府の組織であるが大統領所属ではなく独立した国家機関であり四年を活

略称は「真実和解委員会」。05年5月に国会で制定された「真実と和解のための過去事整理基本法」<法制定過程に関しては『韓国の「過去清算」とは何か』というタイトルで
藤永壯(ふじながたけし)氏が『情況』05年10月号に論文を掲載>に基づき、05年12月から同委員会が公式に活動を始めた。「犠牲者」「遺族」からの真実糾明申請を受
付、職権調査をすすめることができる。<「申請」は06年11月末日で締切られている>。来訪に合わせて広報も行われたが『朝日新聞』が十数行の記事掲載をしただけのよう
である。重要課題として「民族独立糾明」の領域として≪日帝強占期あるいはその直前に行われた抗日独立運動日帝強占期以降、2005年12月1日まで我が国の主権を守り
国力を伸張させるなどの海外同胞史≫。「集団犠牲糾明」の領域として≪1945年8月15日より権威主義統治時期に至るまでの憲政秩序破壊行為など違法あるいは著しく不当
な公権力の行使によって発生した死亡・障害・失踪事件、その他重大な人権侵害事件と造作疑惑事件≫。その他の課題とし≪「民事訴訟法」「刑事訴訟法」による再審事由に該当
し真実糾明の必要性が認められた裁判所の確定判決事件、疑問死真相糾明委員会の未完結事件あるいは再調査申請事件≫を対象としている。
昨7月29日「韓国自由共同体研究会」と共同で聞慶(ムンギョン)セジェ博物館にて朴烈と金子文子に関しワークショップを東京や山梨からの参加者と共に開催した。
聞慶市は、2000年に朴烈記念事業会を発足させ、展示館の建立、生家の復元など多様な事業を繰り広げている。この共同のワークショップは聯合ニュースハンギョレ新聞に
より告知され、前記「真実和解委員会」から調査委員二名が当日参加した。参加した趣旨は朴烈、金子文子たちが1923年にたちあげた「不逞社」に参加していた活動家の遺族
が同委員会に「真実糾明申請」をしたことによる調査開始のためである。そして協力を求められ東京での再会となった。
当時「不逞社」への日帝によるフレームアップ弾圧は治安警察法<秘密結社に相当とする>、爆発物物取締罰則からエスカレートし、刑法73条<大逆罪>が浮上してきた。金子
文子と朴烈は同志への波及を阻止するため自らが有していた天皇とその一族への打倒の意志を具体的計画が進捗していたわけでもないが予審廷で語り始めた。そのため不逞社メン
バーは一年前後の不当拘留のあげく予審免訴<不起訴>となった。
しかし、その後金子文子、朴烈への救援を担ったメンバーがその過程の1925年に成立した治安維持法違反により韓国の「真友連盟事件」というグループに関わる件でフレーム
アップされ3年から5年の実刑を受け、二名の朝鮮の活動家が実質獄死する要因となっている。
 この国においては、金子文子・朴烈への大逆罪によるフレームアップに対して1945年以降、今日に至るも国家としての責任がとられていない。そして二人の「事件」の十五
年前に全体としてはフレームアップであった「幸徳事件」への犠牲者への責任も国家は回避した。今年も1月27日に<大逆事件の真実をあきらかにする会>により「大逆事件
刑97年追悼集会」が開かれた。同会は1960年の再審準備が発足の大きな柱となっている。その経緯は「1961年1月18日、坂本清馬、森近栄子(運平実妹)東京高裁に
再審請求申立て、森長弁護人等代理人、1965年12月1日再審請求棄却、1965年12月14日特別抗告、1966年9月20日最高裁審理決定、1967年7月5日高裁
決定を有効と判断、特別抗告棄却」であり再審の途は閉ざされている。
 今年の集いも管野須賀子の墓碑がある正春寺に全国各地から50名を越える参加者<幸徳事件の被弾圧者「子孫」、関係者、横浜事件の被告関係者、再審弁護団等>があった。
 また金子文子の死去から八十年を迎えた昨年6月には「徹底した平等主義、天皇天皇を中心とした国家の存在の否定」に現れた金子文子の思想、生き方や裁判の検証、朝鮮の
人々への思いへの研究を柱として、「やまなし金子文子研究会」が発足し全国に向けて参加が呼びかけられている。
 韓国では7月の聞慶におけるワークショップ、8月にはKBS TVにより「金子文子」の生き方がドラマ化されている。8月26日付『釜山日報』に番組の内容が解説されて
いる。以下部分引用。
天皇暗殺を図った朝鮮の男性朴烈(パク・ヨル)と日本の女性金子文子に死刑が宣告された。瞬間、朴烈は「裁判長、君も苦労したな」と語り、金子文子は万歳を叫んだ。日帝
の死刑宣告にも屈しなかった彼らは、果たしてどんな人たちだろうか。「KBSスペシャル」が、彼らの人生と死を扱った特集ドラマを送りだす。26、27日午後8時KBS
1TVで放送される2部作「金子文子」「朴烈と一緒なら、死も満足する」という熱い愛、無政府主義に傾倒した彼女の思想を盛り込んでいる。世界の無産革命を夢見た二人は、
革命の最大の障害物と天皇を規定し、彼を除去する計画を立てるが、爆弾テロによる天皇暗殺企画は計画段階で挫折する。平凡な「不良な取締まり」にひっかかり、計画全体が発
覚してしまったのだ。しかし、彼らの真の闘争はこの時から始まる。朴烈と金子文子は無罪を主張せず、自分たちが正しいことをしようとしたと話した。「天皇暗殺計画は、極め
て正当だった」と主張しながら、法廷を闘争の場に変えたのだ。以後、彼らは「天皇はなぜ暗殺されるべきか」をめぐり、日本の司法府と命を担保にした正面対決を展開する。

 また「独立記念館」においても朴烈と金子文子のみならず闘争を行い日帝の監獄に囚われたアナキストたちの活動内容が「展示」された。
 一方、この国では「昭和の日」制定、「昭和記念館」開館と天皇<制>が強められている。
 虎ノ門事件や桜田門事件の検証をも含めて「大逆罪弾圧」を糾明する機会がより多くもたれることを願う。