1925年9月17日。古田大次郎『獄中手記』より。愈々今日迄だ。明日から外の三君は赤になる。僕は灰色だ。いつ永遠に消えるとも解らぬ灰色だ。人並みに見る浮世の光も今日限り。思へば一寸淋しい気もする。

futei2007-09-17

 自分の死ぬ事計り考へてゐる所為でか、今日古河君に会つて、「昨日追悼会をやつた。」と聞いた時誰のか解らなくつて、僕達のにしては莫迦に早いなアと変に思つた。で「誰の追悼会?」と聞き返した位だ大杉の死を決して忘れた訳ではないのに余程頭が如何かしてると見える。
 倉地君と新谷君とに検事控訴があつた。マンマと不意打を喰つた形だ。
 如何して控訴なんかしたのか。
 明日にも和田君は他所に行く、僕は遠からぬ中に殺される。後に残る二人は淋しいだらう。僕達も何となく心細い。友人の落付き場も見ないで死ぬのは辛い。がもう仕方のない事だ。
 雨が──何と言つても秋だ、淋しさうに降つてゐる。降れ、降れ、もつと降れ、そして僕の心をズンと沈ませろ。……
 寒い位涼しくなつた。寝心地のいゝだけは有難い。
 浮世の夜よ。左様ならだ。