刊行直後にも紹介しましたが、管野須賀子の埋葬日にちなみ再び紹介します。

紀伊国屋書店のデータより>
『帝国と暗殺―ジェンダーからみる近代日本のメディア編成』
412頁 新曜社 2005-10-28出版 内藤 千珠子【著】\3,990(税込)

メディアのなかにあらわれた病、女、血、アイヌをめぐる差別と定型の物語から、韓国併合閔妃暗殺、大逆事件などの暗殺をめぐる物語まで。
物語のほころびをとおして、帝国日本の成立過程をさぐる気鋭の論考。

第1部 物語のほころび(病と血;女たち;植民地)
第2部 スキャンダルとしての暗殺(王妃と朝鮮;死者たち;天皇と暗殺)
◆物語に支配されないために物語を暗殺しなければならない◆
近代の国民国家は活字メディアを通して「想像の共同体」として形成されたというのは、B・アンダーソンの説ですが、本書は、明治期の新聞・小説・広告などに頻出した、病いや血や女性身体、植民地をめぐる、差別と定型の物語を題材に、日本という国が立ち上がってきた過程をさぐります。さらにそれが、閔妃(朝鮮王妃)暗殺、伊藤博文暗殺、明治天皇暗殺計画としての大逆事件といった、定型をはみ出す「暗殺」の物語になだれ込んでいく過程を追いながら、メディア共同体の欲望、近代の背理をえぐり出します。近代日本の国民国家形成の物語にジェンダー物語論から迫った、気鋭の力作です。

【目 次】
第一部 物語のほころび
第一章 病と血
 1紋切り型/2衛生論と福沢諭吉/3細菌と北里柴三郎/4身体と境界/5未来の危険
第二章 女たち
 1皇后/2娼妓/3女学生/4女性論と広告メディア/5血の道/6化粧・皮膚・子宮
第三章 植民地
 1北海道/2アイヌ・病・女/3滅亡とあわれみ/4混血
第二部 スキャンダルとしての暗殺
第四章 王妃と朝鮮
 1閔妃という女/2金玉均の暗殺/3王妃の死体/4メディアの殺意/5皇后の国葬
第五章 死者たち
 1王妃なき朝鮮/2皇帝の醜聞/3大韓帝国の皇太子/4伊藤博文の暗殺/5誤解される安重根/6妃たちの病気と物語の更新
第六章 天皇と暗殺
 1大韓帝国併合/2天皇制とセクシュアリティ/3無政府主義の病/4王妃の記憶と管野須賀子/5天皇の病死
おわりに
註/あとがき
朝鮮王朝の系図/初出一覧/関連略年表/文献一覧/索引

◆本文紹介◆
暗殺をめぐる物語は、メディアの濃くて深い欲望と媾わりながら、価値のあるスキャンダルとして増殖し続けた。活字としての日本語には厚い記憶が埋め込まれているが、逆説的なことに、ほかならぬ言葉の記憶が、現在における細部の忘却を促している。 メディア上に氾濫していたそのような物語は、登場人物としての女、女のイメージ、記号としての女、女の比喩を幾重にも連鎖させ、魅惑と嫌悪の対象に仕立てあげた上で、女を傷つけ、殺し、葬ろうとする。こうした女なるものへの殺意や悪意は、「東電OL事件」報道で、被害者の女性に向けられたメディアの欲望と同じパターンを描いていると言えるだろう。そこには、物語の定型が刻印されているのだ。 物語の定型を抽出し、再現するのではなく、物語が定型として化してゆく過程で生じた、いまでは忘れ去られてしまった意味の軌跡をたどること。それは、歴史が現在の現実に切り結んでいると知ることでもあるだろう。(「はじめに」より)