古田大次郎獄中手記より。1925年6月18日。

公判の時、和田君に何か書いてゐるのかと訊いたら、ウン、だが何も書く事はないぢやないかと笑つてゐた。新谷君や倉地君も同じやうな答へをする。して見ると僕だけか知ら、下らぬ事をゴタゴタ書くのは。かう思つたら恥づかしくなつた。
 確かに下らぬ世迷言だ。少し気の利いた事をかけないものか知ら。
この参考書だつて、僕のゐない所で他人が読むのだと思へばこそ、平気でいろんな事が書けるのだ。若し僕の眼の前で読まれるのだつたら、恥づかしくつて何も書けやしない。
三行略
 果して大阪の皆は元気でゐるだらうか? 如何しても安心出来ない。無理に元気を装つてゐるのではなかろうか。心で泣いて、表で笑つてゐるのではなからうか。吃度さうだ。その胸の中はどんなに苦しいだらう、辛いだらう。それを思ふと、僕は東京でかうやつて、ヌクヌクとしてゐるのが済まなくてはならない。
八行略
今日可愛いい手紙──絵ハガキが来た。望月桂の愛嬢公子ちゃんから来たので、一人の女の子が犬に湯を用はせてゐる絵葉書だ。
五行略