<二十六日夜半>金子文子 『朴烈・金子文子裁判記録』黒色戦線社

「〈自分は今斯うやりたいから斯ふやる〉これが、私にとって自分の行為を律すべく唯一つの法則であり命令です。もっと判り易く云ふと、私の行為の凡ては〈私自身さふしたいからさふする〉と云ふ丈の事であって、他人に対しては〈さふせねばならん〉とも〈さふあるべきだ〉とも云ひません。私は思ふんです。私が私自身の事を考へ、私自身の道を歩む為に、私自身の頭と足とを持ってるやうに、他人も亦自分の頭と足とをもってる=つまり、私は、自主自治─凡ての人が自分の生活の主となって自分の生活を正しく治める処に、かすかながら私の好きな社会の幻を描いて見る気にもなるのです。
 私が、自分の行為に要求する凡ては自分から出でて、自分に帰る。つまり、ピンからキリまで自分の為で、自分を標準とする。従って私が〈正しい〉と云ふ言葉を使ふ時、其れは完全に〈自律的〉な意味に於てである事を断はっときます。