<埃が裾風に立つ部屋>室生犀星「萩原朔太郎」一九三〇年

彼が最近乃木坂倶楽部に滞在してゐたことがあつが訪ねると留守で一時間ばかり待つてゐる間に、如何に此の男がものぐさい構はない無頓着な男であるかを熟々感じた。第一彼は脱いだ洋服をそのまま丸めて壁ぎはに片寄せ、その次ぎにはズボンを筍の皮のやうに剥ぎすて、第二番目に寝衣やオーヴや襯衣を又丸めて片寄せてあるのである。勿論寝台は今朝そこをぬけて出たままの脱殻であり机を中心として手紙や原稿紙、本や小包やウィスキイの瓶やお燗のガラス器や盃や煙草のカラや、カラをぬけ出た巻煙草などが一杯に散らばり、少しでも動いたら埃が裾風に立つといふ始末である。……